コレラ-流行と郵便物に施されたある消毒法-

コレラという感染症があります。

代表的な経口感染症のひとつで、コレラに汚染された生水や食べ物を摂取するとコレラ菌の多くは胃液によって死滅しますが、しぶとく生き残ったコレラ菌は小腸で増殖し、毒素を生成します。

その結果、猛烈な下痢(いわゆる米のとぎ汁のような排せつ物が出る)と嘔吐が患者を襲い最悪の場合、死に至ることもあります。

最大の感染源となるのは患者の吐瀉物・排泄物。昔は下水の処理など衛生環境も整っていなかったことから、ひとたびコレラや赤痢などの感染症が発生してしまうとたちまち流行を招いてしまいます。

まあ今の日本の衛生環境を考えれば起こりにくい病気だと思います。

もともとコレラはインドのインダス川デルタ地帯の風土病だったようです。18世紀にヨーロッパ各国のインド進出が直接の因果なのか、後に世界中に広まり多くの人々を苦しめていきます。

もちろん日本でも過去(主に江戸・明治時代)に何度も大流行を引き起こしては多数の死者を出しています。

 

コレラ発生

明治12(1879)年3月14日、愛媛県のとある漁村で突如コレラが発生しました。

県ではその報告を受け消毒作業を始めるもののある問題が起こります。住民の間でその消毒自体を危険視し、作業を拒んだため防疫作業に支障をきたしたのです。結果として大流行を招き、瞬く間に日本全国に蔓延していきます。

行政は船舶の入港を制限するなどの国内検疫を強化したり、消毒のために石炭酸を散布したり、なんとか流行を抑えようと様々な対策を講じています。

その対策はコレラ流行地から差し出された郵便物にも及ぶことになります。

 

消毒方法とは

郵便報知新聞には郵便物の消毒について駅逓局からの周知事項が掲載されています。

虎列刺(コレラ)病流行ノ地方ヨリ到着スル郵便物ハ消毒ヲ施行〜(略)

郵便報知新聞 明治12年6月30日付

要約するとコレラの流行している地域から到着する郵便物は消毒しますよ。そのため多少配達に遅れが生じるのと、郵便物が破損したり変色するかもしれないので心得ておきなさい、ということが書かれています。

具体的にどういう消毒を行うのかまでは同記事内に記載されていませんが、その当時された郵便物の消毒のひとつに硫黄を使う方法がありました。

箱の中で硫黄をくすべて(燻蒸)、その煙を郵便物にあてて付着しているコレラ菌をやっつけようというものでした。新聞記事内にあった変色のくだりは硫黄の煙によるものだったのかもしれません。

各地の郵便局でこの硫黄による消毒法や石炭酸入りの袋を各局に交付するなど、なんとか被害の拡大を防ごうといろんな対策が施されました。

 

効果のほどは

硫黄燻蒸がどういった理屈で考えだされたかというと、北里柴三郎の著書に詳しい説明があります。

それをみると、

硫黄を火の中に入れて燻蒸すると小さな虫がばたばたと死んでいく。ならば、虫よりも小さい病原菌も死滅するに違いない

という説に基づいているのだとか。

さらにこの著書の中で硫黄燻蒸でコレラ菌は死滅しなかったという、コッホの実験も取り上げられています。

このことからも分かると思いますが、硫黄燻蒸による郵便物の消毒は結果的に見れば【効果はなかった】ことになります。

当時の人たちの名誉のために

1.硫黄燻蒸消毒により郵便物に害が残らないように注意が図られたこと

2.今回取り上げたコレラの流行と消毒方法は1879年

コッホがコレラ菌を発見するのは1883年

上記で紹介した北里柴三郎の著書『通俗伝染病叢書 第3編 (虎列剌予防法)』が出版されたのは1912年のこと

ということはお伝えします。

(参考図書)
『日本コレラ史 東京大学出版 山本俊一』『病が語る日本史 講談社 酒井シヅ』『病いと癒しの民俗学 批評社 磔川全次』『通信文化新報 通信文化振興会 S36.5/20、5/24』




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