富士山に郵便局-日本一高いところにある局のはじまり

日本を象徴する山といえば富士山

古来より文学・絵画の題材にされ、毎年夏休みの時期になると多くの登山者がこの山に登ろうとやってきます。まあ途中で脱落をする人も多いみたいですが、誰しも一生に一度はは富士山の頂上でご来光を拝んみたいと思うのではないでしょうか

 

不動?日本一高いところにある郵便局

人々に親しまれている富士山の山頂付近に夏の行楽シーズン限定で開設される郵便局があります(定期開設局)。この場所にある限り、よほど地殻変動がない限り日本一高いところにある郵便局の称号は変わることはないでしょう。

知らないで登った人は「なんでこんなところに郵便局が?」と思われるかもしれませんね。この局のニーズと言えば富士登山の記念としてスタンプを押してもらうこと。もちろんスタンプと言っても観光地にあるスタンプではなく、切手に押される正式な消印です。

最初に富士山に郵便局ができたのはの八合目付近で1906年(明治39年)の7月のことです。

 

簡素な局スペース

雑誌「交通」(明治39年8/10号)には

郵便局は富士山郵便局と称せられ、甲斐の吉田口駿河の須走口より八合目の石室に開設せらるゝものにして、其開期を七月三十日より九月十日迄と為す。

とあります。

ただ当時の朝日新聞(明治39年8/26付け)によると実際は前日の29日の午後から取り扱いが開始されたみたいです。プレオープンでもしたのか分かりませんが紙面ではそういうことになっています。

局に向かって右側には〒マークの入った旗とその左に日の丸の旗を設置し、石室の中のつくりは

一部六畳敷きばかりなるを使用し、形ばかりの洋机と戸棚を備えあるだけ

-東京日日新聞 明治39年8/26より

非常に簡素で殺風景な局内だったのが目に浮かびます。この局がある場所を考えると設備を充実させようにも簡単にできるわけもなく、夏の期間だけなので仕方ないでしょう。

こんな質素な局ではありましたが、登山客の入りは上々で最初に持ってきた5厘切手×3万枚が瞬時に売り切れてしまうほど盛況ぶりで、繁忙期になると局員を増員して対応に当たっていました。

十日間交代に徹夜したるほどにて、最も多数の投函端書に記念のスタンプを捺せしもの一日間に約二万五千、この外単に消印のみを請求して幾枚となく持ち帰る登山者のそれを加うれば、右に幾倍するかその数の知れぬほどなり

-東京日日新聞 明治39年8/26より

 

もう1つの富士山局

翌年には現在の富士山山頂郵便局の前身である定期開設局が御殿場口頂上に設置され(7/16〜8/31まで)、この新設された局名を「富士山郵便局」としました。

昨年まで「富士山郵便局」だった八合目の局は「富士山北郵便局」に改称されています。

なんだかややこしい(笑)
新設局を「富士山郵便局」にすればよかった気がしないわけでもありませんが・・・

以前山頂浅間大社に付随され居りし共参会事務所を借り受け、是れを以て富士山郵便局と定められしなり。局舎は間口二間、奥行三間の石室

-交通 明治40年9/10より

この局も盛況で記念押印を求める登山客が多く局員の一人は「押印手は掌を腫らし一時押捺苦しみし事あり」ながら、せっせと押印作業をこなしていったそうです。ご苦労さんです

1935年8月に発行された逓信協会雑誌には富士山局局員の体験記が載せられていて

時ならぬ寒さに大抵の人が口唇の色もなく、ガタガタ震えながら當局の風景入記念スタンプの押捺を乞ふもの、切手に、葉書に、仲々賑ひます

 

風景印と共に

風景印とは何たるかはこちらのページを見ていただくとして、風景印がはじめて設置されたのがこのページで紹介している富士山郵便局と富士山北郵便局でした

当時は逓信博物館が切手や風景印の図案の作成をしていたみたいで、その職員である吉田豊氏が担当して富士山郵便局の風景印の図案作成にあたりました。

富士山郵便局

富士山北郵便局

 

1931年(昭和6年)7月10日から使用が開始されたのです(その5日後には全国の有名な観光地にある郵便局に設置されていくようになった)。

ただの局名と日付の入った消印よりも富士山の絵柄の入った風景印の方が親しみやすく、登った時の記念として思い出にも残りやすいでしょうね。




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